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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(オ)152号 判決 1949年3月19日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

衆議院議員選挙法(衆議院議員選挙に準用)は選挙訴訟を認めて、訴訟によつて選挙の効力を争うことを許しているのであるが、同法が選挙訴訟について当事者たる適格、出訴期間等につき厳重なる制約を設けているのは、要するに選挙の効力をなるべく迅速かつ、画一的に確定せしめんとする趣旨に外ならぬと解すべきである。従つて訴訟によつて選挙の効力を争うには必ず同法所定の選挙訴訟によることを要するのであつて、他の訴訟においては、たとい訴訟の前提要件としてもこれを争うことは許さないものといわなければならいない。この理は当選訴訟に対する関係においても同様であつて、若し選挙自体が無効であるならば当選人がその当選の効力を失うことは自明であるけれども、選挙の有効無効を決すべき争訟の方法は前示のごとく特定されているのであつて、選挙訴訟の判決をもつて(但同法第八二条第二項の場合については後出)無効なりと宣言されるまでは、選挙は有効なのであるから、当選訴訟において、選挙の無効なことを原因として当選人の当選を争うことは許されないものと解しなければならない。翻つて同法第八三条所定の当選訴訟について考えるに、当選訴訟は、選挙において当選を失つた者すなわち選挙会において当選人と決定されなかつた候補者が選挙会において、他人を当選人と決定したこと、または自己を当選人と決定しなかつたことに対し異議を述べその決定の効力を排除せんとする訴訟であつて、若し選挙それ自体が無効であるならばその選挙における当選の有効、無効を争うことは、意味をなさぬところであるから、当選訴訟はその性質上、当該選挙の有効なことを前提要件とするものといわなければならない。従つて当選訴訟において、その訴の原因として選挙の無効を主張することは、その主張自体において、矛盾するものであつて、訴訟の性質上かゝる主張は許されないものと言わなければならぬ。

本訴において、原告(上告人)が原因としているところは、昭和二三年二月五日施行の衆議院長野県選出議員選挙において、長野県選挙管理委員会は、その統制管理の下にある長野放送局が上告人の選挙放送を不当に禁止したのに対し、これを是正すべき権利と義務とを有するに拘らず、何等の措置を講ぜずして、選挙を施行したのは、選挙の公正を害するものであるから、右選挙は無効であり、従つて被上告人の当選も無効であるというに帰する。すなわち本訴において上告人が被上告人の当選を無効なりとする原因は、右選挙自体が無効であるからとの理由によるものであつて、それ以外に被上告人の当選を無効とする原由については、上告人は本訴において、何も主張していないのである。とすれば選挙の無効は選挙訴訟においてのみ主張することができるのであつて、当選訴訟の原因としてこれを主張することの許されないことは既に前段説明のとおりであるから、本訴はこの点において失当といわなければならない。原判決が当選訴訟としては、その原因を缺くものと判示したのは正当である。

尤も、衆議院議員選挙法第八二条第二項には、当選訴訟においても、裁判所が選挙の管理執行につき、選挙の規定に違反するところあり、それが選挙の結果に異動を及ぼすおそれあるものと認めるときは、選挙の全部または一部を無効とする判決を為すべきことを定めているけれども、これは、原判決も説明しているごとく選挙に関する訴訟はいずれも公益に関するところ重大であり、選挙が無効であれば当選訴訟は存立の余地がないのであるから、裁判所がたまたまその訴訟における全資料にもとずいて当該選挙自体が無効であることを認めたときは、例外的に特に当事者の主張を待たず、すゝんで選挙の無効を宣言する判決をすべきことを規定したものであつて、この規定は選挙無効の訴において、選挙の無効を原因として主張することを許した趣旨ではないのである。

よつて本件上告は理由ないものと認め、民訴第四〇一条第九五条第八九条に従い主文のとおり判決する。

右は、全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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